シー・エム工房かわせ


なぜ合板か


 合板を使用する理由

機械式振り子時計側の事情

 機械式振り子時計を出来る限り少ない動力で、精度よく動かして、動作信頼性も高くするには、以下の条件が必要である。

  1. 機構を構成する部品の寸法精度を維持する、部品同士の接触する面の均質性、耐久性を高く保持することが必要。

  2. 特に歯車については、歯車同士の噛み合い状態を良くするために、真円度を保ち、歯車の歯の形状を維持することが必要。また、耐久性を確保するために、偏った磨耗状態を起こさないようにする。

  3. 歯車軸間の距離や、軸部のスラストすきまを保ち、歯同士の噛み合いの隙間が変化して、噛み合い代が少なくなったり、噛み込みの状態にならないようにすることが必要なので、歯車軸を支持するベースになる、地板や、文字盤の平面度(そり)や、寸法の変化を抑える必要がある。


材料の板側の事情

 一般の無垢材の板の場合、丸太から挽いて板材にした時には、主に3種類の木目状態の板になる。

A、丸太を輪切りにした状態で、板面に現れる木目が輪状になる。(まれな製材方法)
B、丸太を年輪にほぼ直角状態に板取りして、板面の木目が縦に整列した柾目になる。
C、丸太を年輪に平行あるいはこれに近い状態で板取りして、板面の木目がとがった山状に出る板目になる。

 Aの場合は、特に放射状のひび割れが出やすく、且つ、歯車の形状を切り出した場合、歯部の木目が柾目状態になり、歯の強度が小さく、歯欠けの状態になりやすい。
 また、Bの場合、木目に平行な方向と直角の方向の伸縮率が大きく異なるので真円度が崩れやすい上に、歯がこぼれ易いところと、強度はあるが歯厚が変化し易いところ、その中間のところと、歯の精度や強度が均質になりにくい。
 Cの場合は上記の欠点をカバーしやすいが、板の平面度が変化し易い(面のそり)欠点がある。

これらの欠点が、機械式振り子時計側の事情を満足し難い状態にしている。これらの無垢材の欠点を少しでも少なくするために、無垢材(合板や、集成材ではない製材しただけの天然木材)を使用する木工製品は、年輪のきつくない緻密な高級材を厳選し、良くからして(乾燥させて歪を出し切って)から使用し、かつ湿気の影響を避けるためにニス塗装するのが通常である。それでも、湿度の大きな変化や、長い年月で含水率が変化すると、寸法変化が出て狂いが出てくるので、使用時に木目の方向などを使用部位によって最適な方向にしたりして、カバーするようにも工夫している。

 上記の無垢材の欠点を大幅にカバーすることが出来るのが合板で5プライ以上の物である。
 合板は丸太を薄くかつら剥きにしたシートを作り、このシートを木目の方向が交互に直交するように重ねて接着張りしたものである。こうすることにより、木の縦と横の伸縮率が異なる性質を打ち消すように平均化することが出来るので、そり難く(平面度を維持し易い)、見た目の木目の縦と横方向の寸法変化の差を抑えることが出来る。
 重ね合わせの層数が多くなるほど、この平均化の利点はより効果を発揮することになります。また、小口面も縦と横の面が交互になるので、小口面全体としては、方向に関係なく均質である状態に近づくことになる。

 量産される合板技術は、ラワン合板に始まり数十年の歴史があるが、初期は接着剤などの性能がイマイチで、耐久性の面で難がありましたが、近年は、接着剤の進歩により、耐久性の良いものになています。一方、市場的には良質な大きな木材の入手難もあり、柱や梁の材料として、細い木を接着で集成して、無垢材よりも強度と耐変形性能で優れた集成材が作り出され、大きな建築に使用されてきている状態です。
 工芸品は、無垢材を使用するのが一般的で高級ではあるが、大きな材料は数が少なく、入手が困難のために高価になり、庶民には手の届き難い価格の物になっています。一方、木目の美しさや木としての質感が、プラスチックや金属、あるいは塗装の面よりも「温かみがある」との理由で好まれるため、自然木が好まれる状態でもあり、この結果、自然木をより大切に、より合理的に使用する合板が多用されています。

即ち、本工房で、板材(歯車とベース材など)には共芯のシナ合板を使用する理由は、
  1、機械としての性能と信頼性を高め、インテリア性と、実用性を両立させるため。
  2、また、これをリーズナブルな価格で実現するため。
です。
 さらに、より均質性を高めるために、全層シナ材の合板(共芯シナ合板とも言います)の5層重ね以上のものを使用していますが、内層まで欠陥の少ない材料の入手に苦労しています。